1-4 TCP/IP モデルと OSI の対応
現実のインターネット通信を支える TCP/IP の 4 層モデルを取り上げ、OSI 7 層との対応関係を整理する。
1. TCP/IP モデルとは
OSI 参照モデルが ISO によって体系的に標準化された参照モデルであるのに対し、TCP/IP モデルは実装が先行して発展した枠組みである。1970 年代の ARPANET 上で動いていたプロトコル群を IETF が RFC として体系化していく過程で、「事実上の標準(de facto standard)」として定着した。
現在のインターネットそのものが、この TCP/IP の上に成立している。Web の HTTP 通信、メール、DNS による名前解決、これらすべてが TCP/IP の階層構造に従って動作する。OSI は概念整理のための語彙として残り、実装としてのインターネット通信は TCP/IP モデルが担う、という棲み分けになっている。
2. TCP/IP 4 層モデルの全体像
TCP/IP モデルは、上から順に 4 つの層で構成される。
- アプリケーション層: 利用者が直接扱う通信を担う層。OSI の L5〜L7 をひとまとめにした位置づけにある。
- トランスポート層: 通信の両端(エンドツーエンド)でデータの整合性や順序を制御する層。OSI の L4 に相当する。
- インターネット層: 異なるネットワーク同士を中継し、論理アドレスに基づいて経路を決定する層。OSI の L3 に相当する。
- ネットワークインターフェース層: 物理メディア上でビット列を伝送する層。OSI の L1〜L2 をひとまとめにしたもので、「リンク層」と呼ぶ流儀もある。

3. 各層の役割
アプリケーション層は、HTTP・SMTP・DNS など、利用者から見える通信プロトコルを収める層である。OSI ではセッション層・プレゼンテーション層・アプリケーション層に分かれていた機能を、TCP/IP では 1 つの層にまとめている。文字コード変換やセッション管理は、各プロトコルの内部で必要に応じて実装される。
トランスポート層は、TCP と UDP のほぼ二択である。TCP はコネクション確立と再送制御により信頼性を担保し、UDP はそれらを省いて低遅延を優先する。
インターネット層には IP(IPv4 / IPv6)と ICMP が属する。論理アドレスである IP アドレスを用いた経路選択(ルーティング)は、この層で完結する。
ネットワークインターフェース層は、Ethernet・Wi-Fi・PPP など物理メディアに直結する規格群を含む。MAC アドレスによるフレーム伝送から、ケーブルや電波の物理仕様までがこの層に収まる。
4. OSI 7 層との対応関係
OSI と TCP/IP の対応を表で整理すると、以下のようになる。
| OSI(7 層) | TCP/IP(4 層) | 代表例 |
|---|---|---|
| L7 アプリケーション層 | アプリケーション層 | HTTP, DNS, SMTP |
| L6 プレゼンテーション層 | アプリケーション層 | TLS, 文字コード変換 |
| L5 セッション層 | アプリケーション層 | SSH, RPC |
| L4 トランスポート層 | トランスポート層 | TCP, UDP |
| L3 ネットワーク層 | インターネット層 | IP, ICMP |
| L2 データリンク層 | ネットワークインターフェース層 | Ethernet, ARP |
| L1 物理層 | ネットワークインターフェース層 | 銅線・光・無線 |
OSI 上位 3 層が TCP/IP のアプリケーション層に統合され、OSI 下位 2 層が TCP/IP のネットワークインターフェース層に統合される構造が見て取れる。中央のトランスポート層とネットワーク層(インターネット層)は、両モデルで一対一に対応する。

5. なぜ「実装としての TCP/IP」が残ったのか
OSI は理論的な完成度を優先して設計されたのに対し、TCP/IP は ARPANET 以降の実装が先行して現場に広がっていった。標準化を待つよりも先に普及したことが、事実上の標準としての地位を確立する結果となった。OSI は概念整理の語彙として、TCP/IP は実装の枠組みとして、両者は役割を分担しながら今に至っている。
6. 次節
続く 1-5 では、データが各層を通過する際にヘッダが順次付加されていく「カプセル化」の仕組みを取り上げ、Ethernet フレームと MAC アドレスの役割まで含めて整理する。